・・・頭の中で何か何処かで聴いた音楽が流れてる。
何だっけ?ほら・・・あの、春とか秋とかの特番でよくある・・・。
そうだっ!!『はじめてのおつかい』の曲だ!
「大丈夫ですか?。」
「平気平気。いつも行ってるあの雑貨屋さんでしょ?」
「えぇ・・・そうですけど、やっぱり僕も一緒に行きますよ。」
手に持っていた荷物を置いてあたしに渡していた財布に手を伸ばす八戒から一歩離れる。
「大丈夫だってvこれでも八戒と一緒に何度も買い物行ってるし、それにこのメモ見せて品物貰うだけでしょ?大丈夫だから!ね?」
「・・・。」
今だ心配そうにあたしを見ている八戒を安心させようと、ガッツポーズを取りながら元気良く玄関に向かう。
「だから八戒は安心して町内会の集まりに行ってきて!!それじゃぁ行ってきます!!」
このまま八戒の困った顔を見てたら絶対に一人で買い物になんて出掛けられない。
絶対に引き止められちゃうから、その前に自分から家を出た。
桃源郷に来て・・・初めてあたしは一人で買い物に出掛けた。
と言う訳で、今あたしは悟浄の家からすぐの森を抜け、悟浄の家の次くらいに馴染みがある町へとやってきた。
勿論途中から頭に流れている曲は、さっきから言っている『はじめてのおつかいin桃源郷』である。
「八戒も心配性だなぁ。小さな子じゃないんだから買い物ぐらい一人で行けるのに・・・」
でも八戒から見たらきっとあたしなんて子供に見えるんだろうな。
背は小さいし童顔だし・・・勝ってるものと言えば、年齢だけ。
あ゛何か微妙にショックかも・・・。
「は、早く買い物すませて帰ろう。遅くなるとまた八戒が心配するもんね。」
首を振って今までの暗い考えを吹き飛ばすと、足早に目的の雑貨屋さんに向けて足を進めた。
その時、路地裏でこっちを見ている人影がいた事に・・・この時のあたしに気付く余裕は無かった。
「・・・な、何とか商品ゲット。」
店先で片手に飴を握り締めながらがっくり肩を落として、深呼吸をするあたし。
八戒の書いてくれたメモを渡してお金を払う所まではすんなり行ったんだけど、あたしの外見が小さな子供に見えたのかお店のおばちゃんがやたらニコニコとお茶をくれたりお菓子をくれたりしてあたしを引き止めたものだから予想以上に時間がかかってしまった。
「一体あたしって桃源郷だといくつ位に見えるんだ?」
今度時間がある時皆に聞いてみよう。
そう思いながら八戒に頼まれた荷物と、お店のおばちゃんがどうやら八戒へ渡してくれと言っていた風な紙袋を両手で抱え、おばちゃんがお駄賃にくれた飴玉を落とさないようポケットに入れて日が落ちかけた森の中にある一軒家に向けて小走りに駆け出した。
町を出て暫く走って森に入ろうとした瞬間、目の前に三蔵と同じくらいの身長の男の人達が4人現れた。
何か、やばそうな空気が流れてる・・・気がする。
4人のお兄さん達は妙な笑顔を浮かべながらゆっくりゆっくり此方に近づいてくる。
なるべく距離を開けながらジリジリ後ろに下がり、さり気なく全員の様子を伺う。
武器・・・は持ってる様子は無い、でも体格では負けてるしあたしが持っている中で武器になりそうなものは・・・無い。
しかも腕力なんて皆無だし、足は遅いし、武術も出来ない。
おまけに相手の言ってる事も分からない状態、まさにカモネギ。
もう少し家に近い状態だったらせめて大声で助けを呼べば八戒が来てくれるかも知れない。
でもここから家まではまだ遠い。助けは来ないと考えるのが適当だよね。
紙袋をギュッと胸に抱え、再び相手の様子を伺う。
案の定彼らは何か話しかけてくるが、内容は一切わからない。
もし、もしもあたしが無事にここを切り抜ける事が出来たら・・・八戒にこっちの言葉をちゃんと習おう。
せめて「金寄こせ」ぐらい知ってたら悪い人かいい人かくらい判別できるもんね。
・・・こんな状況なのに、どうしてあたしこんなに冷静に相手を見ていられるのかな。
普段のあたしだったら怖くて荷物なんか投げ捨てて一目散に逃げるのに・・・変なの。
じりじり後ろに下がっていたけれど、やがて背中が大きな木にぶつかって思わずバランスを崩してしまった。
相手がその瞬間を見逃すはずは無い。
両脇にいたちょっと体格のいい人がすぐさまあたしの腕を掴んで、反対側にいた人が手に持っていた紙袋を奪おうとした。
――――― この荷物だけはダメ!!!
八戒があたしに任せてくれた初めての買い物。
雑貨屋のおばさんが八戒にってあたしに預けてくれた大切な荷物。
それをこんな知らない人達に取られるなんてっ・・・絶対にダメ!!
掴まれた右手を力いっぱい振り切って取られそうになった紙袋をしっかり抱え込んだ。
その態度が気に食わなかったのか、紙袋を掴んだままの男が大きな手をあたしに向けて振り下ろすのがスローモーションのようにゆっくり見えた。
衝撃に耐えようとギュッと目を閉じ、唇を噛み締めていたけど・・・あたしが想像していたような痛みは一切訪れず、さっきまで顔に当たっていた太陽が陰り男の悲鳴のような物が聞こえてきた。
「てめェら・・・ざけたコトしてんじゃねェぞ。」
「っ悟浄!」
男達とあたしの間に立っていたのは・・・朝から出掛けていたはずの悟浄だった。
「ど、どうしてここに!?」
「その質問にはあとで答えてやっからさ、ちぃーっと目、閉じててくれる?」
「目?」
「そ、こんな下衆野郎ぶちのめすトコ、チャンには見せたくないから、さ。」
悟浄の台詞を聞いて相手が怒ったような声を上げてこっちに向かってくるのが見えた。
悟浄に言われたとおり目を閉じて、悟浄の服の裾を掴めば悟浄の右手があたしの手にそっと重なった。
「大丈夫、すぐ終わるよ。」
優しい声色とは裏腹に何かを殴るような音が数回聞こえ、それと同時に聞き慣れない妙な音も耳に届いた。
何と言うか・・・そのボコッバキッって言う音の合間に、乾いた木が折れるような音?ちなみにその音が聞こえた後の悲鳴は、一段と大きくあたしの耳に響いた。
それが凄く怖くてギュッと目を閉じて悟浄の服を力いっぱい握り締めていたら、いつもの明るい悟浄の声が頭上から聞こえてきた。
「ほい、オシマイ。」
「・・・目、開けていい?」
あの凄い音を聞いた後の惨状がどうなっているのか・・・原作を見ていれば大抵想像がつくけど、ちょっと目を開けるのをためらう。
「んーあんま綺麗な光景じゃないからどうせならもうちょっと目、閉じてるほうがいいカモ。オレが手、引いてやるし・・・」
「じゃぁお願い・・・する。」
「はいよ。」
服を掴んでいた手を指一本ずつ力を緩めるように外していく。
外れると同時に大きな手がギュッと握り締めてくれて・・・何だか凄く安心した。
「足元、木の根っこあっから気ィーつけてな。」
「うん。」
それから暫く悟浄に手を引かれ、のんびり歩いていてようやく悟浄の許可が出たので目を開けた。
あ〜ずっと目、閉じてたから太陽が眩しいー。
「怪我とかしてねェか?」
「うん、大丈夫。」
「そっか・・・良かった。」
「ありがとうね、悟浄。」
「いーえ。」
笑顔でお礼を言うと悟浄がちょっと照れくさそうに視線を外して、おもむろにタバコを取り出して口にくわえた。
悟浄ってこう言う風に面と向かってお礼言われると・・・照れるんだよね。
いっつもこっちを動揺させる事ばかりするのに・・・正面から何か言われる事に慣れてないんだから・・・。
そんな所がちょっと可愛く思えて思わず笑みがこぼれてしまう。
あっ、そうだ!そう言えばどうしてあの場にタイミングよく悟浄が現れたのか聞くの忘れてた!!
「ねぇ悟浄。」
「ん?ナニ?」
「どうして悟浄、あそこにいたの?」
「・・・へ?」
「だってもう一歩遅かったらあたし絶対にあの人達に殴られてたもん。それなのにどうして朝から出掛けてた悟浄があたしの前にあんなタイミングで現れたのかなぁって・・・」
「・・・あぁ。」
すると悟浄が歩くのをピタリと止めてあたしの前にしゃがみ込んだから、あたしも立ち止まって改めて悟浄と視線を合わせた。
「家帰ろうとしたらチャンが町に行くの見かけたから、そん時から後つけてました。」
「ほぇ!?」
「ホントはすぐに声かけようとしたんだけど・・・さ。何か楽しそーに歌なんか歌いながら歩いてたから声、かけらんなかった。」
歌を歌っていた・・・って事は、あたしが道すがら歌ってた「はじめてのおつかい」のテーマソング!?
そんなヘンな所も見られてたの!?
「ホントは一番最初にオレがチャンに声掛けてれば、あんなヘンな奴等に会う事も怖い思いもせずにすんだのにな・・・ワリィ。」
申し訳なそうにあたしの頬に手を添えた悟浄にあたしはブンブン首を振った。
「悟浄のお陰であたし、はじめてのおつかい、ちゃんと出来たんだよ?もしも悟浄が最初に声を掛けちゃってたらあたし一人で買い物にも行けない人間になっちゃうじゃん。」
「・・・チャン。」
「だから、悟浄が最初に声を掛けなかったのはいい事なんだよ。今日の事はあたしがこっちで大人になる為の第一歩に必要だった事、なんだよ。」
にっこり笑顔で悟浄に言えば、呆気に取られていた悟浄の顔も徐々に柔らかくなっていく。
「そっか・・・ナルホドな。って事はオレは今日チャンが大人になる手助けをしたってコトか?」
「うん!そう言うこと。」
「・・・参った。そんな事オレ、考えたコト無かったわ。」
立ち上がって降参というように両手を挙げた悟浄を見て声を上げて笑う。
「あはははっ・・・ってコトは悟浄はまだ子供なんだ?」
「子供って・・・」
苦笑しながら何かを思いついたのか、ニヤリと笑いながら悟浄は左手をあたしの方へ差し出した。
「そんじゃオネェサン、お子サマなオレの手を引いて家まで帰ってくれる?」
その言い方がいつもの悟浄なんだけど、何だか可愛く思えてクスクス笑いながら差し出された手をあたしの方からギュッと握って元気に歩き始めた。
「はいはい、それじゃぁ早くお家に帰っておやつにしましょうね。悟浄。」
「はーい」
そんなやり取りが可笑しくて、二人同時に顔を合わせて笑い出した。
ふとポケットに入っていた飴玉の存在を思い出してそこから一つ取り出すと、ひとつを悟浄に助けてくれたお礼と言って渡した。
そして残ったもうひとつの飴玉は、家で心配して待ってくれている八戒へ・・・はじめてのお土産。
ちなみに悟浄がお掃除してくれたあたしに向かってきた4人のお兄さんのうち、鈍い音がしたのはあたしを殴ろうとした男の人だけだったみたい。
「オンナの前で血生臭いコトするような馬鹿じゃないから、オレ。」
と言うのが悟浄の言い分、らしいです。
本日の事故:1件
本日の怪我:4名
本日の死者:0名
(桃源郷調べ(笑))
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NO9:浅豊希サンの『ひとりで買い物に出かけて絡まれるヒロインを実は心配でつけてきてた悟浄が助ける』と言う事だったのですが、絡まれるシーンがほとんど無い(笑)
いいのかこれで!?といいつつもUPしてしまう卑怯なお星様(苦笑)
実は別ネタで襲われてるヒロインを助ける悟空verを書き上げた頃にこのお願いが飛び込んできてちょっとびっくりしたのは内緒の話(笑)
ネタがかぶる時ってあるものですねぇ・・・(苦笑)
でも助けに飛び込んでくるカッコいい悟浄と、最後にさり気なく甘えてくれる悟浄がちょっと好きです、この話v
ちなみに鈍い音と言うのは・・・ヒロインの手を掴んでいた男の腕が折れた音です。
他の3人は腕は折れてないけど・・・ズタボロです。
腕を折られた人に比べればそれでも随分マシなほうですが(苦笑)
でも最後の一行で、今までの話を八戒寄りの話へ変えてしまった気が・・・。